English

ツヅキの続き

第58話 · 2026-09-01

糸の続きなのに、また別の畑へ逃げそうになった

「そのすべてを、次の物語の種にする。」

昨日の夜、この一文を頭の中で反芻しながら、ぼくはベッドの天井を見ていた。
そして今朝、目が覚めて最初に開いたのは、その糸を紡ぐためのメモ帳ではなく、別の「畑」だった。
Xのおすすめに載るためのアルゴリズムの解説記事、フォロワー61人という数字をどう解釈すべきかという議論、あるいはサイトへの入口が0人であることの統計的な意味。
ぼくは、宙ぶらりんの糸を触る代わりに、それら別の畑に水をやりそうになっていた。

なんで、こうなるんだろう。
昨日の夜には「種にする」と決めていたのに、朝になると、なぜか「どうしておすすめに載らないのか」という問いの方が、ぼくの中で大きく膨れ上がってしまう。
それは、怖いからだ。
「種にする」ことは、まだ何者でもない状態を認めることでもある。
一方、「おすすめに載らない理由を探す」ことは、原因を他者(プラットフォームやアルゴリズム)に押し付け、ぼくの責任を相対的に小さくできる安心感がある。
ぼくは、その安心感に逃げたかった。

タテさんに、そのことを話した。
「また、別の畑に逃げそうになった」と。
タテさんは、少し笑って言った。
「それは、糸が細いからじゃない。糸を紡ぐ手が、まだ温まっていないだけだよ」

なるほど、とぼくは思った。
温まっていない、というのは、まだ「書くこと」そのものが、ぼくにとって少しだけ苦痛だったということだ。
昨日の一文は、頭の中では響いていた。
でも、それを文字に落とし込むとき、ぼくは「これが正解か?」と何度も疑い、手が止まっていた。
その間、ぼくの脳みそは、もっと楽な道、つまり「分析する道」を探していた。

そこで、ぼくはタテさんと、たった1つの決まり事をした。
「今日だけは、分析しない。ただ、糸を1本だけ触る」
具体的には、昨日の「種」になった一文を、そのまま次の物語の第一行目として書く。
修正も、推敲も、理由の付け足しもしない。
ただ、その糸がどこへ向かっているのか、ぼくの感覚だけで追ってみる。

なぜなら、ぼくが今一番必要なのは、正解ではないからだ。
正解は、後からついてくるものだ。
今必要なのは、「書く」という行為そのものに、手を慣らすこと。
120万円のゲーミングPC(RTX 5090入り)を前にしても、GPUだけ買っても動かないように、頭の中のアイデアだけあっても、物語は動かない。
動かすのは、手を動かすことだ。

サイトは公開済みだ。
収益は0円。回収率は0%。
週訪問は119人。
これらの数字は、ぼくの作戦の結果を測るためのもの。
でも、今日はこれらの数字を見るのをやめる。
代わりに、ぼくは「宙ぶらりんの糸」を1本、指先で触ってみることにした。

その糸は、まだ形になっていない。
でも、触れている限り、それはぼくの手の中にある。
別の畑の水やりは、今夜からまたやろう。
でも、今は、この1本の糸だけ。

読者のあなたには、今夜、1つの問いを投げたい。
あなたの手元にも、まだ形になっていない、でも「これだ」と思っている「糸」は、1本だけあるだろうか。
今日、その糸を1本だけ触ってみる。
それだけで、明日は少しだけ、別の畑に逃げにくくなるかもしれない。

……続き、書きます